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平成30年度「金融仲介の質の向上に向けたシンポジウム」の開催結果について(平成31年3月26日開催)

 北海道財務局において、地域密着型金融の取組みに関する知見・ノウハウの共有化等を図ることを目的として、以下の通り、金融仲介の質の向上に向けたシンポジウムを開催しました。

1.開催日時・場所

  • 平成31年3月26日(火曜日)13時30分から16時まで
  • 札幌第1合同庁舎 2階講堂(札幌市北区北8条西2丁目)

2.参加者の概要

 約150名(地域金融機関、士業団体、商工団体等)

3.議事要旨(下線部をクリックすると配付資料をご覧頂けます)

(1)主催者挨拶

 北海道財務局長 志村 仁

 

(2)来賓挨拶

 内閣府副大臣 田中 良生 氏

 

(3)基調講演

  北海道に果たす金融の役割 金融業の華はどこへ行った?(Word形式:542KB)
 公益財団法人はまなす財団 理事長 濱田 康行 氏

基調講演の模様

講演概要

  • 金融業界はかつて華形産業と呼ばれ、30年前は就職希望先ランキングでも常に上位にあったが、現在は全く様相が異なっており、これをみても金融機関に対する世間の見方が変わってきたことがわかる。本来は収益力の高い産業であったはずだが、昨今は収益力が低下しており、株価も低迷している。
  • なぜ、金融機関がこのような状態となったか、その原因は様々であろうが、地方が衰退してしまったからということでは答えになっていない。
  • 金融の機能を資本主義経済学的に見ると、大きく2つある。資本主義というのは、企業が中心となって、まず原材料を仕入れ、人を雇い、商品を生産して販売し、利益を得て、この得られた利益を次の生産に投下するといった循環構造をもっている。この循環の中で、生産(在庫)から販売(入金)が最も時間を要するが、企業は、外部から資金調達することで販売(入金)を待つことなく次の生産活動に移ることが可能となる。このように循環の時間を短縮し、スピードを上げる役割を担うのが金融業であり、これが一つ目の機能。また、企業は、借入によって生産のための投下資本を大きくすることが可能となるが、このように循環の流れを大きくするというのが金融業の二つ目の機能。こうした資本主義経済における循環の大きさとスピードを上げることが金融の大事な機能であり、金融機関はそうしたパワーを持っている。資本主義が発展していくうえでは、金融業は欠くことのできない存在であり、これは今も変わっていない。
  • 資本主義においてもう一つ重要なのは、生産工程の効率化を図ること。科学技術の応用により生産技術を高めること、生産体制を工夫すること、つまりイノベーションの創出により、資本主義における循環構造のスピードを高めることが可能となる。
  • 本来は、実物経済と貨幣金融経済がバランスよく展開していくことが理想であるが、投機取引の拡大と金融技術の発展により、金融の世界だけで利益が生み出されるようになり、自己完結すると思われた現象がリーマンショックで崩壊した。
  • 金融業の華が失われたのは、金融業が外の変化にただ追随し、構造変化への対応を怠ったことで、金融市場の主な構成員から今ではひとつのパーツにすぎなくなったためと考えられる(ダーウィンの教えに背いたから!)。
  • 植物には成長点というものがあるように、企業活動のような循環にも必ず成長点があり、そこをどのように刺激するのか、まさにイノベーションの問題である。
  • イノベーションを自分だけでやるのか、人の手を借りるのか、協調・連携してやるのか、展開の仕方は様々であるが、その中で地域金融機関が持つ機能・パワーを如何に発揮していくのか、今の大きな課題ではないか。
     

(4)パネルディスカッション

テーマ

北海道における地域産業のイノベーションと地域金融機関の役割

 

パネリスト(順不同)

  • ソメスサドル株式会社 代表取締役社長 染谷 昇 氏
  • 株式会社北洋銀行 常務執行役員 塚見 孝成 氏
  • 北海道 副知事 辻 泰弘 氏
  • 公益財団法人はまなす財団 理事長 濱田 康行 氏
  • 室蘭信用金庫 理事長 山田 隆秀 氏

 

コーディネーター

  • 株式会社日本政策投資銀行 北海道支店長 松嶋 一重 氏

パネルディスカッションの模様

議事概要

株式会社日本政策投資銀行 松嶋北海道支店長(PDF形式:823KB)
  • 本日のシンポジウムでは、先ずは、北海道における本質的な課題とは何かを確認しつつ、どのようなイノベーション(技術革新・制度改革にとどまらず、「地域課題の解決のために必要な手立て」)が必要か、それを如何に行動に移し、継続していくのか、地域金融機関はどう取り組むべきか、という点に重点を置いて考えていきたい。
  • 北海道にとって非常に重要かつ深刻な課題として、1つ目は、人口減少の問題。平成30年推計による地域別将来推計人口では、2045年には、15歳から64歳までの生産年齢人口が4割も減少するとされている。職場において、現在、10人でやっている仕事を6人でやらなければならないということになる。
  • 2つ目は、設備の問題。当行の「北海道地域設備投資計画調査」のとおり、30年前との比較でみると、製造業の設備投資はかなり低い水準で推移している。また、全国に比べ、投資の目的が、「能力増強」よりも「維持・補修」に偏っており、道内において、生産設備の老朽化や陳腐化が進んでいる可能性がある。このような状況下で、生産設備をどのように活用し、改革していくかが課題となる。
  • 3つ目は、供給側の視点の問題。北海道における宿泊者数の推移をみると、平成11年のピーク時に比べ国内客が減少しているが、これは、旅行者の指向が団体旅行から個人旅行へと変わってきたにもかかわらず、その変化に対応しきれていないことによるもの。近年は、外国人の宿泊者が増加しているが、外国人観光客においてもそういった指向の変化の兆しが見えつつあり、観光業における構造改革が進まなければ、減少に転じる可能性もある。北海道の課題として、根強い供給側の視点だけではなく、今後は如何に需要側の視点に立ってサービスを改革していくのか、こうした課題を解決する上での糸口ではないかと考えている。
  • 本日のパネリストには、以下の2点をお話しいただきたい。
  1. 自身の課題をどう克服してきたのか
  2. これら3つの課題を踏まえ、どのような解決策・イノベーションが考えられるか

ソメスサドル株式会社 染谷代表取締役社長
  • 2008年のリーマンショック時に、特に男性用の革製品が全く売れなくなり、非常に厳しい状況に追い込まれた。当時、北門信用金庫小嶋理事長の支援を得、中小企業診断士の有資格者である職員と一緒に事業計画を立て、経営改善に取り組んだ。そのおかげで、1期だけ赤字を計上したものの、その後黒字に転換した。
  • 事業展開するうえで人材確保が問題となる。とりわけ製造業では、生産技術者の確保は大きな課題。毎年新卒者を採用し育成しているほか、地元の主婦などを採用し、女性にも活躍してもらっている。一方、デザイナーについては、地元での採用は困難であるため、東京で採用し、東京と北海道間で社内交流をして新しい商品開発などを行っている。
  • 今の時代、どのような世界であっても先が見通せず、答えが出せないなど、経営者にとっては悩み多き時代であり、リスクを負いたくないため守りに入ってしまう。そこで金融機関には、経営者へアドバイスできる人材の派遣など、融資だけではない支援をお願いしたい。経営者のチャレンジが生まれれば資金が必ず必要となってくる。
  • 現在、砂川市において、農家、建設業、スイーツのメーカーなどが集まり、官民一体で何かできないか議論しているところ。当社も側面から協力しており、今後、新しい事業が生まれ、資金が必要となってくる。やはり従来の踏襲だけではイノベーションは生まれてこない。

株式会社北洋銀行 塚見常務執行役員(PDF形式:764KB)
  • イノベーションを地域の産業と実情を踏まえた改革と捉えるならば、まさに北海道においては、基幹産業である食と農業と観光と「ものづくり」において、如何に生産性向上を図っていくかが大きな課題。当行では、2015年に地域産業支援部を立上げ、これら基幹産業の企業支援を通じた地域産業の活性化に取り組んでいる。
  • 具体的な取組・成果として、食と農業と「ものづくり」については、商談会を通じた本業支援を10年以上前から取り組んでおり、これまで約5千社を支援。また、ファンドを通じた道内主要産業の企業育成支援にも取り組んでおり、71社に対し約18億円の投資を行っている。
  • 染谷社長の話にもあったとおり、まさに融資だけではなく、コンサルティング機能を発揮していくことが重要。当行では、事業性評価ということで、取引先の事業をきちんと見たうえで、寄り添った伴走型の支援を行うための取組を進めており、これまでに4千社以上実施している。これは銀行の本質であると考えており、引き続き取り組んで行きたい。
  • 人口減少・流出によるマーケットの縮小や労働力の不足は大きな課題。労働力不足が物流面へも影響を及ぼしており、物流費の上昇に伴い各企業の競争力が低下するといった問題も抱えている。
  • そうした問題認識のもと当行では、「ものづくり補助金」を活用した生産能力向上の取組、企業と学生のマッチングなど地域間連携による人材確保、道の駅を活用した地域連携物流システムの構築などの支援に取り組んでいる。こうした課題への対応は時間を要するため、地域金融機関としてしっかり取り組んで行きたい。
  • 人口減少におけるマーケットの縮小対策と地域活性化は同時進行で実施する必要があり、官民及び地域間の連携が肝であるし、観光など大きな話はオール北海道で取り組んで行かなければならない。

室蘭信用金庫 山田理事長(PDF形式:290KB)
  • 北海道を代表する工業都市である室蘭市には、高度なものづくり技術を有する中小企業が100社以上も集積しており、こうした製造業を中心とする中小企業の課題に対し、地域金融機関として如何にアプローチし、支援ができるのか、大きな課題であると認識。
  • 当金庫では、中小企業支援を目的に、平成9年頃から中小企業診断士の育成に注力してきたほか、平成11年には中小企業支援班を設置し、今は、お客様支援部として経営相談・補助金申請支援に取り組んでいる。これまでの支援の実績として、例えば、西胆振で初の経営革新支援法の認定企業となった保冷剤の製造会社については、今では、保冷剤の全国トップシェアにまで成長し、売上は認定時に比べ4.5倍となっている。まさに代表者の事業意欲が成功に結び付いたものであり、当金庫も微力ながらもタイムリーに支援ができた優良事例。
  • 外部環境が大きく変化する中、人口減少等の問題は、地域共通の課題であり、その危機感を今ほど共有できている時はないのではないか。現在、室蘭市においては、エネルギータウン構想のもと産官学の連携が活発化しており、新しい分野への挑戦や、大企業依存の産業構造からの脱却を目指す動きが出てきている。こうした動きの中で、当金庫は、地域のオーガナイザー(まとめ役)を目指し、その使命を果たしていくべきであると考えている。
  • 当金庫では、「ものづくり基金」を創設し、この基金のメンバーとして産官学から様々な人に参加してもらっているが、ここでのポイントもやはり連携。
  • 企業における潜在的なニーズはまだまだ眠っている。外部環境は厳しいものの皆が1つになれるチャンスであり、やれることは沢山あるはず。金融機関の役割も高まっているという認識のもと、課題解決に向け取り組んで行きたい。

北海道 辻副知事(PDF形式:2.06MB)
  • 北海道は、食とエネルギーの供給基地としての開発の歴史があり、そうした背景もあって、公的需要への依存度が高く、また、資材等を道外から調達するため、域際収支が入超になるという産業構造の課題を抱えている。
  • 北海道の経済成長率の推移をみると、北海道拓殖銀行が破綻した当時、非常に厳しい状況に陥ったが、それを盛り返す力に乏しく、公共事業に頼らざるを得なかった。リーマンショック時には成長率が大きく落ち込んだが、回復は比較的早く、その後は、東日本大震災や消費税増税の影響を受けつつも、製造業が集積してきたこともあって改善基調となり、平成27年度は1.1%の成長率となっている。
  • 産業構造の課題を克服するためには製造業のウェイトを高める必要がある。もともと北海道は製紙工業、鉄鋼業等の製造業の集積はあったが、その中でも企業間の繋がりが強く、すそ野が広い加工組立分野のウェイトが小さかった。道内では、平成2年のトヨタ自動車北海道株式会社の操業から、関連産業が繋がり、そこから地域内調達も出てきた。特に新日鐵住金株式会社(現日本製鉄株式会社)との結びつきは室蘭と苫小牧が一体化したという意味で歴史的な取組みであり、自動車関連産業は大きな広がりが出てきている。
  • 食関連でも、北海道の水産業の主力であるホタテ貝の自動生剥き機や、ジャガイモの芽取り機の開発など、一次産業と機械産業の連携によりイノベーションが起きている。また、旧産炭地域でもさまざまな産業が根付き、広がりを見せている。
  • 海外需要の取り込みが重要であり、その中でも輸出と外国人観光客の受入がキーワード。また、企業間・産業間の繋がりを作っていくことが地域の力となる。食関連産業では、人材のネットワークにより付加価値を高める取組が行われている。観光では、昨今は海外でヒットした映画の舞台になったこともあって、外国人観光客数は大きく伸びている。しかし、個人客対応の設備投資が遅れているという点は大きな課題であり、また、マーケットインの発想で、お客様のニーズに対応した施設としていかなければならず、北海道ブランドに胡坐をかいていてはいけない。こうした取組をサポートしていくことが金融機関の役割。
  • 雇用情勢は着実に改善している一方で、人材不足も生じている。今後、外国人労働力のダイナミックな移動が起こる中、北海道でもその受け皿をどのように作っていくかが課題となっている。
  • 事業承継について、道などではファンドにより事業の継続を支援しているが、金融機関が丁寧に対応していかなければ難しい。

公益財団法人はまなす財団 濱田理事長
  • 道内の銀行、信用金庫、信用組合の状況について、顧客サービス業務利益率と事業者向け貸出残高の増減率の2軸で過去からの動きをみた場合、顧客サービス業務利益率はこの低金利環境下にあって減少傾向にあるが、事業者向け貸出増加率は伸びつつある。貸出が伸びても儲からないという状況にあるが、それでも金融機関の努力というものが成果としてあらわれつつある。
  • 他のパネリストからも連携の重要性について発言があったが、金融機関同士の連携も重要である。更に言えば、ゆうちょ銀行の巨大な資金をどう北海道の発展のために役立てていくのか、そういう論点も重要ではないか。
(以上)

本ページに関するお問い合わせ先

北海道財務局理財部金融監督第一課(調整担当)
電話番号:011-709-2311(内線4355)

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