「高校生と先生のための金融経済教育・消費者教育シンポジウム」を開催しました(実施報告)
はじめに
財務省近畿財務局では、長寿化、デジタル化の急激な進展、令和4年4月からの成年年齢の引下げという現在の大きな環境変化の中、金融経済教育・消費者教育によって、一人一人の安定的な資産形成を実現し、情報・金融リテラシーを向上させ、自立した消費者を育成することを目的として、金融経済教育・消費者教育の関係機関と連携して令和3年3月25日に「高校生と先生のための金融経済教育・消費者教育シンポジウム」を開催しました。
主催(共催)
財務省近畿財務局・金融庁・大阪府消費生活センター・大阪府金融広報委員会・
大阪私学教育情報化研究会・日本証券業協会大阪地区協会・株式会社大阪取引所・
生命保険協会大阪府協会・公益財団法人生命保険文化センター
シンポジウムの模様
シンポジウム開会にあたり、主催者を代表して株式会社⼤阪取引所 代表取締役社⻑(現 株式会社東京証券取引所 代表取締役社⻑)⼭道 裕⼰ ⽒より、⼤河ドラマの主⼈公や⼤阪の淀屋橋にあった淀屋米市から始まった堂島⽶市場といった参加者の興味を惹きつける話題に絡めて⽇本の経済の仕組みや取引所の起源等の説明を交えた挨拶がありました。
第⼀部 基調講演の模様
「将来を考えてリスクと付き合う︓豊かに⽣きるための知識」と題して、⼤阪⼤学経済学研究科 教授(現 ⼤阪⼤学感染症総合教育研究拠点 特任教授)⼤⽵ ⽂雄 ⽒より基調講演を⾏って頂きました。
⼤⽵⽒は、⾏動経済学に基づき、⾦融の基礎を⾼校⽣の勉強や成⻑と絡めてお話くださったほか、⼈間の意思決定や⾏動の癖と、それを知った上でどのように考え⾏動していくのがよいか⾼校⽣に語り掛けられ、若い世代へのエールを込めた講演となりました。
講演は、「夏休みの宿題」を例にとり、「夏休みに⼊る前はいつまでに終えてしまおうと計画を⽴てるが、実際には夏休みが終わるギリギリまで宿題をしない⼈が多い。きちんと計画を⽴てていても、いざ直⾯すると実⾏が難しいという⼈間の特性(現在バイアス)を知っておく必要がある。お⾦を貯める際も、毎⽉貯蓄をするなど先延ばしできない仕組みを作ることがポイントである。」と⾼校⽣にもとっつきやすい話題から、お⾦を貯めるコツをアドバイスされていました。
続いて、経済成⻑率2%で皆さんの⽣活⽔準が倍になるのは何年後かということを例にとり、皆さんが毎⽇1%実⼒を伸ばすと1年後には⼤きな差となるということについて、⾦融の複利の仕組みと70の法則で説明され、コツコツ頑張ることの⼤切さを話されました。
また、⾼校⽣への問いかけを通して、リスクに対する感覚は⾮常に⾮合理であることを参加者に実感させ、損失を確定させないためによりリスクの⾼い選択をしがちな損失回避の特性について話されました。
⾼校⽣からは、未来に向けてどのように考え⾏動していけばよいのか、⽰唆を得たとの感想が聞かれました。
第⼆部 ワークショップの模様
ワークショップでは、⾼校⽣等(中学⽣、⼤学⽣を含む)に、より主体的に、実感を持って⾦融や経済を学んでもらうことを⽬的として、架空の企業に模擬投資を⾏うシミュレーションゲームである資産形成体験ゲームを実施しました。ゲームでは、新商品の発表、⾃然災害、⾦融トラブル、M&A、景気や為替の変動、万博の開催など、様々なイベントが発⽣し、参加者は、会場・オンラインそれぞれ3⼈から4⼈のグループに分かれて、グループで議論を⾏い、投資⾏動を決定していきます。
会場5チームとオンライン3チームの投資結果は、元本4万円のところ、資産残⾼17,510円から47,300円と⼤きく差が出ました。しかし、各イベントとそれに基づく株価は⼀つのゲームにおける単純化されたストーリーに基づくものであり、現実の経済や株価はいろいろな要因で動きます。したがって、重要なことは、ゲームの結果ではなく、参加者が様々な経済事象について考え、他⼈の意⾒に⽿を傾け、結論を導き出していく過程を体験するということにあります。
最終的な資産残⾼が第⼀位となったD班は、最初のイベントではFX取引のトラブルで資産を減少させ、途中までは元本割れの状態でしたが、最後のイベントで⼤きく株価を上昇させた企業などへの思い切った投資が当たり、⼀気に資産を増やす結果となりました。⽣徒たちは「この投資⽅法だと予想と逆の結果になるかも」など様々な観点から検討を重ねていたとのことです。
⼀⽅、最下位となったA班は、「上がる可能性の⾼い個別の企業になるべく絞って投資をしたい」などの投資⽅針を決めて投資を⾏い、2回⽬のイベントではこの投資⽅針で⼤当たりし⼀気に資産を増やしましたが、続く3回⽬のイベントで未公開株への投資で詐欺にあい、多くの資産を失いました。ゲームの振り返りでは、実際の未公開株詐欺について注意しなければいけないとも実感を込めた感想を述べあったとのことです。
このほかにも、分散投資に努めた班や、万博に地域のタワーを⽴てようと多額のクラウドファンディングに参加した班など、様々な投資⾏動が⾒られました。
今回ワークショップに参加した⾼校⽣からは、「予測がつかないのでどの会社に投資をしたらいいのか難しいなと思いました」、「⾃分で実際に考えながらできたので楽しかったです」などの感想があがりました。⾒学をした先⽣⽅からは、「授業での活⽤イメージがわいた」「⽣徒が楽しそうにお⾦について学んでいた」などの感想をいただきました。
ワークショップでは、⾼校⽣・先⽣⽅それぞれに学びや授業・教育のヒントをつかんでいただくことができたのではないでしょうか。
第三部 パネルディスカッションの模様
パネルディスカッションでは、『⾦融経済教育・消費者教育の現状と課題』をテーマに、⼤阪私学教育情報化研究会 副会⻑・関西学院千里国際中高等部 教諭 ⽶⽥ 謙三 ⽒による進⾏のもと、消費⽣活相談員 ⼤久保 育⼦ ⽒、公益財団法⼈⽣命保険⽂化センター ⽣活情報室調査役 ⻫藤 数弘 ⽒、⽇本証券業協会 ⾦融・証券教育⽀援センター⻑ 内⽥ 直樹 ⽒の間で、「学校現場における⾦融経済教育・消費者教育の現状」や「学校現場において⾦融経済教育、消費者教育を進めていくメリットと課題」について意⾒が交わされました。
⼤久保⽒からは、⽣徒の⽇常⽣活の「あるある」を学びの⽷⼝にする提案や、トラブル事例の実際の映像の活⽤やグループワークでのアウトプットの情報共有のためのマグネットカードの利⽤など授業を進める上での⼯夫について具体的にお話しいただきました。
⻫藤⽒からは、講師派遣や副教材などの取組みの紹介のほか、学校現場において⾦融経済教育や消費者教育を進めていく際には、⽣徒の発達段階にあわせて、使⽤する⾔葉や表現に細⼼の注意を払って消化不良を起こさせないようにする配慮が⼤切だとのお話がありました。
内⽥⽒からは、経済的に⾃⽴した⽣活を営むためには、⾦融に関するトラブルに巻き込まれないよう、正しい金融商品知識を身につけてリスクを理解することが⼤切であるとして、授業等で活⽤できる学校向けの情報提供やオンラインを活⽤した副教材などをご紹介いただきました。
最後に⽶⽥⽒から、パネルディスカッションのまとめとして、⾦融経済教育・消費者教育の主体は⽣徒であり、⽣徒がワクワクしてオンライン・オフラインで学び、探求につなげていけるようにすること、⼤⼈の役割としてその学びの体験の場をいかに設定するかということ、そのためにも本⽇のような様々なステークホルダーの連携が鍵となるというお話をいただきました。そして、参加された先⽣⽅に対する「今こそ教育活動の⾒直しのチャンスと捉えて取り組んで欲しい」とのメッセージでまとめていただきました。
閉会挨拶
主催者を代表して財務省近畿財務局 総務部⻑ 児⽟ 光載 より、登壇者・参加者の皆さまへの御礼の⾔葉を申し上げるとともに、「今回のシンポジウムで得られたものをそれぞれの学校や団体等の場で活かして頂ければ幸い。今後も関係機関が⼀層連携して⾦融経済教育・消費者教育の発展に寄与していきたい。」との閉会の挨拶がありました。