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地域金融機関の取組みと課題

1.現状認識

  1. リスク要因は軽減:不良債権処理の進展、株価の上昇等を背景に、全体としてはリスク要因は減少傾向にある。金融機関によっては多額の債券を保有しており、金利動向に注意は必要であるが、全体として大きなリスクが存在しているわけではない。現在のマクロ経済・金融情勢を前提にすれば、総じて金融セクターの安定化は着実に進んでいる。
  2. 緩慢な環境改善:他方、景気は緩やかな回復に向かっているが、金融機関経営者においては、自らを取り巻く経済環境について、当面、急速な改善は望めないとする見方が多い。その理由としては、以下が挙げられる。
    1. 回復トレンドにあるとはいえ、水準自体は未だ低位に止まっていること。また、東京を中心とした景気回復に比べ、地場産業を中心に地方経済の回復が遅れていること。
    2. 家電等好調な業種や業態・規模を問わず好調な企業には設備投資の動きも見られるが、キャッシュフローの範囲内での投資が大半で、前向きの資金需要には結びついていないこと。
    3. 地価下落に歯止めが掛かっておらず、担保不動産の評価目減りは当面続くと見込まれること。

2.地域金融機関の取組み

 

収益性を向上させるには、徹底した業務の効率化を進める一方、収入拡大を図り併せて与信費用の軽減を図ることが不可欠である。後者は、融資規模の拡大や債務者支援を通じて地域経済の活性化に繋がるものであり、各金融機関の「機能強化計画」には次のような切り口から各種の取組みが盛り込まれている。

  1. 店舗・人材の重点化:営業店を地域のマーケット特性に応じて再編成、新事業支援や企業再生支援の専担チームを組成など、経営資源の有効活用を企図した動きが認められる。
  2. 事業内容の適切な評価:産学官金ネットワークでの技術評価、コンサルタントの活用など、外部専門家のノウハウを活用する一方、目利きのできる専担部署の設置、業種別スペシャリストの養成、専門技術を有する職員を認定し人事処遇を図るなど、内部人材の育成に注力するところもある。また、経営トップ自ら融資不採択事例をチェックし、融資の掘起しを行うところもある。
  3. 担保保証に依存しない融資:未だ収益の柱になるまでには成長していないが、スコアリングモデルを活用した無担保・第三者保証不要の商品が既に発売されている。
  4. 迅速な対応:本部専門チームによる支店サポート体制の強化、支店への専担者配置による本支店間の意思疎通の強化、融資支援システムによるプロセス管理、などにより判断の迅速化を企図するところもある。
  5. リスク分散:住宅ローン債権の証券化による金利リスクの回避及びその検討、スコアリングモデルを活用した小口定型商品による信用リスクの分散化、などの取組みがみられる。
  6. 企業育成:中小企業者の財務分析、収益増強に向けたアドバイスとして、企業向けの「財務診断」サービスを提供、企業成長支援と金融機関との認識の共有を目指した動きもある。
  7. 地域との連携:「産業クラスターサポート金融会議」や「元気だせ大阪ファンド」などの地域主導の創業支援事業や再生支援事業へ参画するほか、環境経営による地域への貢献などの取組みがみられる。
  8. 債務者支援:専担部署による業務斡旋、ビジネスマッチング、アジア進出企業サポート、産学ネットワークの構築、などのコンサルタント機能の提供が幅広く行われている。
  9. 企業再生・健全化支援:専担部署の強化、支援先への人材派遣、外部専門家の活用など、リレーションの強化による再生・健全化支援(=町医者としての役割)を目指すところが多い。

3.今後の課題

 

以上のように新たな取組みが進みつつあり、企業の一部には「最近、金融機関の対応がより積極的になった」との評価もあるが、一方、これらの円滑かつ効率的な推進にあたっては、以下のような課題があるものと考えられる。

  1. 効率化:一般企業においては、個別経費のみならず、ビジネスモデルそのものの見直しが進められるなど、徹底した効率化の追求により前向きの動きが出てきた。金融機関についても、業務の再構築(業務プロセスや取引慣行の見直しなど)による効率化を更に進める余地はある。
  2. 変化への対応:一般企業は環境変化に応じて絶えず迅速にビジネスモデルを変革していくことが不可欠となっているが、一方、金融機関がこうしたビジネスの将来性を適切に評価することは従来に比べ困難となっている。新たな事業について、金融機関が迅速に対応すると共に、そのリスクを固定化しない仕組みの構築も望まれる。
  3. 地域活性化:創業や再生支援について、例えば「産業クラスターサポート金融会議」、「中小企業再生支援協議会」、「元気だせ大阪ファンド」など、地域において様々な取組みがあり、若干の成果も見られつつある。なお、現状では始動段階のものも多く、今後の展開を見守る必要はあるが、企業側の期待感は高い。今後、適正な企業評価や各取組みにおける相談機能とファイナンス機能の連携強化などにより、効果的な支援が進むことが望まれる。
  4. 政府系金融機関:公益性と金融リスク評価等の困難性が高い分野については政策金融が担うところであり、種々のセーフティネット制度などについては、民間金融機関の需要も高い。今後、企業再生の分野での協調が期待される。
    一方、民間が貸せる先・貸している先に対して、市場ベースと乖離した条件で融資を実行することは本来の目的を逸脱しているとの批判がある。
  5. マクロ経済環境:金融セクターに対する信頼感は回復しつつあるが、それを更に強固なものとするためにも、「りそな問題」を含めた一層の地域金融の安定化は極めて重要である。他方、金融は経済を映す鏡であり、金融機関経営は経済環境の影響を最も大きく受ける。金融セクターの安定化・活性化には、マクロ経済の安定・デフレの解消が不可欠である。

(以上)

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